LIN 入門 — ISO 17987・LDF・適合性試験
LIN(Local Interconnect Network)は、1本の線で、低速・低コストにサブバスを構成するための車載ネットワークです。ドアミラー、シート、空調のアクチュエータ、各種センサなど、CAN を引くほどではない部位で広く使われています。
目次
シングルマスタと決定的なスケジュール
LIN は1つのマスタと複数のスレーブで構成されます。CAN のようなアービトレーションはなく、マスタがヘッダを送り、指定されたスレーブがレスポンスを返す、という形で通信します。
つまり、いつ誰が喋るかはマスタのスケジュールテーブルで完全に決まります。これは決定性という点では利点ですが、スレーブ側から自発的に緊急通知を出せないことも意味します。
通信速度は最大 20 kbit/s 程度で、CAN と比べると大幅に低速です。この帯域で足りるかは、信号点数と更新周期から必ず確認してください。
LDF がネットワークの設計図
LDF(LIN Description File)は、そのバスに参加するノード、フレーム、信号、スケジュールテーブルをまとめて記述したファイルです。
LIN では、この LDF が実質的な設計図になります。多くのドライバは LDF から設定コードを生成する方式を採っており、手書きより整合性を保ちやすくなっています。
スレーブ機器の能力を記述する NCF(Node Capability File)からLDF を組み上げる、という流れも規定されています。
規格の版とバリエーション
LIN 1.3 / 2.0 / 2.1 / 2.2A と版を重ね、現在は ISO 17987 として国際規格化されています。版によって診断・構成のサービスに差があるため、対向機器と揃っているかを確認してください。
SAE J2602 は、北米向けに LIN 2.x をベースとした仕様で、ビットレートや故障時の振る舞いに固有の要求があります。OEM 固有のオプション(GMW 等)が加わることもあります。
SNPD — スレーブの自動アドレス割当
同一のスレーブを複数台つなぐ構成(座席のモータなど)では、どれがどの位置にあるかを区別する必要があります。
SNPD(Slave Node Position Detection)は、電源投入後にスレーブへ自動的にアドレスを割り当てる仕組みです。配線や個体設定に頼らずに位置を特定できるため、生産工程と保守の両方でコストを下げられます。
実装方式は複数あり、対応の有無は部品(LIN トランシーバや Power IC)に依存します。
診断とファームウェア更新
LIN 上でも UDS ベースの診断が使われます。ただし帯域が狭いため、CAN と同じ感覚でデータを読み出すと想定外に時間がかかります。
LIN 経由のファームウェア更新も可能ですが、転送時間が実用的な範囲に収まるかを、イメージサイズから先に見積もってください。現実的でない場合は、CAN 側から更新する経路を用意する設計になります。
適合性試験で問われること
LIN の適合性試験は、データリンク層(DLL)と物理層の両面で行われます。ビットタイミング、スリープ/ウェイクアップの振る舞い、エラー処理、そして電気的特性(立ち上がり時間、しきい値、負荷条件)が対象です。
物理層の不具合は、机上のバス試験では出ず、実車の温度・負荷条件で初めて現れることがあります。認定ラボでの試験成績書を OEM から求められる場合は、開発初期に試験項目を確認しておくと手戻りが減ります。
よくある質問
- LIN と CAN はどう使い分けますか?
- 更新周期が遅く、信号点数が少なく、コストを抑えたい部位が LIN の領分です。制御ループを回す、あるいは多数のノードが自発的に送信する必要がある場合は CAN です。実車では、CAN の下にサブバスとして LIN をぶら下げる構成が一般的です。
- LIN ドライバは MCU ごとに違うものが必要ですか?
- はい。LIN の制御は MCU の UART/LIN モジュールに依存するため、対象 MCU 向けのドライバが必要です。LDF から設定コードを生成するツールを使うと、MCU が変わっても上位の記述を流用しやすくなります。
- ドライバと試験をまとめて依頼できますか?
- はい。対象 MCU、適用する LIN の版と OEM 固有要求、必要な試験項目をお知らせいただければ、構成と進め方をご提案します。
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